教育・保育目標の構築:附属こども園
教育・保育目標の構築:奈良教育大学附属幼保連携型認定こども園
子どもの学びと育ちセンターは附属こども園と共同で、保育について研究を行っています。
奈良教育大学附属幼保連携型認定こども園(以下、附属子ど園)は、2024(令和6)年度から幼保連携型認定こども園へと移行し、令和8年度より0歳児の受け入れも開始しします。これまで幼稚園教育で培ってきた教育・保育の在り方を踏まえ、0歳児からの学びとは何か、乳児期から幼児期への学びの接続とはどのようにあるべきなのか、預かり保育と教育時間との学びの好循環をどのように創っていくべきなのか、多様な子どもと保育者がともに学びあい育ちあう環境とはどのようなものなのか等を模索し、新たな教育・保育課程を策定しました。
まず、附属こども園は、奈良教育大学附属幼保連携型認定こども園として、大学と共通の理念、すなわち「持続可能な社会づくりに貢献できる人材の育成」を掲げて教育・保育を行い、人生の始まりから持続可能な未来に向けて、地球規模の課題を自分事として捉え、身近なところから行動し、仲間とともに新たな価値を創造する力を備えた人になるための基礎を育むことを目指しています。
そこで、新たに構築した附属こども園の教育・保育目標では、持続可能な社会の創り手を育むために、「持続可能な未来に向けて、保育者と共に考え、行動する」ということを、〔地球の中で〕と表現し、一番上に示しています。その実現のために、3つの目指す子ども像、すなわち〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕を教育・保育目標として掲げています。それらは、〇で囲われた、12個の資質・能力を身に付けた子どもたちの姿です。
12個の資質・能力は、〔自分から〕であれば、【主体性】【充実感・満足感】【自己決定】【自己制御】です。〔創造する〕では、【思いつく】【工夫・探究】【やり遂げる】【多面的に考える】を大切な資質・能力として捉えています。また、〔人とともに〕では、【親しみ・信頼】【言葉・コミュニケーション】【違いに気づく】【協力・協同】です。
そして、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕それぞれの教育・保育目標の下には、その目標へ向かう子どもたちの体験の蓄積を具体的に示すために、「体験してほしいこと」として記載しました。それらは、発達の初期から積み上げていく体験であることをイメージしやすいように、下位項目から順に上位項目へと段階を追って示していいます。さらに、これらの体験をするためには、【安心・安定】【安全・健康】【興味・関心・共感】という「基盤となる体験」が土台となっています。以下では、それぞれを詳述しています。
教育・保育目標について
持続可能な社会の創り手となるために必要な考え方や資質・能力について、国立教育研究所が2012年に「持続可能な社会づくりの構成概念(例)」として、「多様性」「相互性」「有限性」「公平性」「連携性」「責任性」の6つや、ESDで育みたい資質・能力としての「批判的に考える力」「未来像を予測して計画を立てる力」「多面的、総合的に考える力」「コミュニケーションを行う力」「他者と協力する態度」「つながりを尊重する態度」「進んで参加する態度」の7つを挙げていまする。また、2023年施行のこども基本法の基本理念には「全ての子どもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」が重要であるとされています。 以上の研究を踏まえつつ、附属認定こども園では、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕の3つを教育・保育目標を掲げるとともに、子どもたちが育んだ資質・能力を使いながら、保育者とともに向かう方向性として、〔地球の中で〕という教育・保育目標として示しています。
〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕の3つの資質・能力は、決して独立したものではなく相互に関連し合ったものであるという考えから、背景に△を描き、総合的な指導の中で一体的に育っていくイメージを強調しています。また、ねらいを達成するために大切にしたい子どもたちの体験を整理して、箇条書きで示しているます。それらは、「基盤となる力と体験」の充実を土壌として芽吹いてくるものであることから、下位項目から順に上位項目へと段階を追って育っていくようにと配置しています。
基盤となる体験
生物としての人間のすべての活動の基盤には、生命の保持、すなわち【安全・健康】があります。清潔で安全な環境の中で、病気の予防や基本的な生活習慣の形成に取り組み、自ら健康で安全な生活をつくり出せるようになることは0~6歳、すべての年齢の子どもたちにとって生活の土台です。生理的欲求が満たされ、適度な運動と休息をとりながら、のびのびと体を動かし、様々な運動を楽しむ力の育成が求められます。
身体の【安全・健康】と心の【安心・安定】は車の両輪です。【安心・安定】では、子どもだけでなく、保護者や保育者、園にかかわるすべての人が多様なままに受け入れられ大切にされて過ごす中で安心感を得、園という環境に対する親しみや信頼を育み、安心して自分らしく過ごすことができるようになることを大切にしたいと考えています。その中で、子どもたちが「自分自身の見方、考え方」をのびのびと表現する力も育まれてくるでしょう。安心できる空間・時間が保証されているからこそ、子どもたちは遊びへと向かうことができます。
【安全・健康】【安心・安定】という土壌がしっかりと育ってくると、子どもたちの身体は動き出し、見たり、聞いたり、触ったり、味わったりという五感を通した体験が豊かに広がり、【興味・関心・共感】の種があちらこちらに芽吹いていくでしょう。そして、子どもたちの興味・関心にもとづく主体的な活動の中で、驚いたり、喜んだり、楽しんだり、泣いたりと様々な情動が耕されていきます。
以上の体験は、どの年齢の子どもたちにも共通して、常に保障されていくべき重要な体験であり、出発点でもあることから、「基盤となる体験」として配置しています。上述した基盤となる体験から芽吹いた種が〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕という姿を育んでいくのです。
〔自分から〕
〔自分から〕とは、主体的に行動してなじみの世界を広げ、自分でやったという充実感を感じながら生活する子どもの姿をあらわしています。そこでは、身近な環境に興味・関心をもち、主体的にかかわる力【主体性】や、生活や遊びの中で出会う様々なものごとに親しみ、楽しんで取り組む力や、安定感をもって行動することを土台としながら、【充実感・満足感】を感じることのできる力が育まれていきます。その中で、自分らしく自信をもって行動するとともに、その行動の結果(責任)について考える力を育んでいきたいと思います。また、自身の見方・考え方を大切にされる体験が、自分にかかわることを自ら選び取って行く力【自己決定】へとつながり、子どもの主体性を支えていく。また、持続的に粘り強く行動するためには、自分の心や身体の主人公として、自分の感情や行動を統制する力【自己制御】が育ってほしいとしてねらいに定めました。
ここで留意しておきたいのは、「なじみの世界を広げる」ということです。環境とは、単に子どもたちにとって物理的な近さを示しているのではなく、実際に探索し、理解し、体験する中で、手触り感のあるものとして、世界が内面化されていくことが重要です。それをなじみの世界と表現しています。ちなみに、〔地球から〕では、なじみの世界を超えて、すなわち「今・ここ」を超えて、過去や未来、地理的な距離がある世界へと理解が広がっていくことを想定しています。
〔創造する〕
〔創造する〕は、試行錯誤を繰り返しながら探求し、新しいものや自分なりの考え、方法を創造し表現する子どもの姿を表現しています。ものごとへの興味・関心から、その性質や仕組みに気づき興味・関心を深めていきながら、新しいことや、アイディア、方法を【思いつき】、それを形にする喜びを味わいつつ、さらに探求を重ねていく姿です【工夫・探求】。そして粘り強く取り組み、失敗してもやり遂げようとする気持ちをもち、実際にやり遂げるという経験を重ねながら、螺旋階段をのぼるように、よりよいものを目指して進んでいきます【やり遂げる力】。その試行錯誤の中で、より多面的な視点から考え、思考を広げて深めていきます【多面的に考える】。特に、主体的な遊びの中でこそ、〔創造する〕姿が発揮されると考え、子どもたちが十分に遊び込み、楽しみつつ探求できる環境とかかわりを大切に保育を行います。
〔人とともに〕
〔人とともに〕は、ありのままをわかりあい、分かちあい、活かしあう子どもの姿を表現しています。芽生えてきた興味・関心を人へと向け、様々な人と触れ合い、気持ちを通わせ、親しみ、愛情や信頼感を育んでほしいと願っています【親しみ・信頼】。その中で、伝え合う喜び【言葉・コミュニケーション】を感じるとともに、自他の違いにも気づき【違いに気づく】、互いのよさを活かし合いながら協力・協同して取り組む力を育んでほしいと思っています【協力・協同】。そのような生活を協同で営む中で、きまりの大切さに気づき、守ろうとし、公平であることや公正であることの感覚を身につけてほしいと思います。
資質・能力の相互の関連性について
注意しておかなければならないのは、各項目の関係性です。先の〔地球の中で〕における「体験してほしいこと」に関しては、3つの教育・保育目標、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕が完全に達成されないと、体験することのできないものではありません。すなわち、3つの教育・保育目標、、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕の下位項目の体験を基に、〔地球の中で〕で必要とされる体験は可能だと考えています。つまり、0歳から〔地球の中で〕の教育・保育目標に記載された体験は可能でしょう。さらに、〔地球の中で〕を通して培われた力によって、3つ教育・保育目標、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕に関連する、より上位の項目への高まりにつながっていくというように、〔地球の中で〕と、〔自分から〕〔創造する〕〔人とともに〕の3つは往還しています。
また、基盤となる力と体験は、乳児期にはその生活や学びの多くを占めるものでありつつも、年長の幼児にとっても同様に重要なものであることは忘れずに保育を行いたいと考えいます。教育・保育目標では、下から積みあがるように体験してほしい項目が並んでいます。一番最下部に配置されている「基盤となる力と体験」の項目はすべて、それが土台となりつつも、すべての年齢の子どもたちにとって、常に必要な体験であることを示しています。