こども園を活用した「乳幼児期の教育」・「保育教諭の養成」・「親性育成教育」の実践的研究
プロジェクトの概要
0〜5歳児が在籍する幼保連携型認定こども園は、乳幼児の保育のみならず、妊娠期を含めた保護者の家庭教育支援や乳幼児期の「教育」を実施する場として、多くの教育的資源を有しています。そこで、奈良教育大学では令和6年度に開園する附属こども園を活用し、妊娠期からの継続した保護者支援を行います。具体的には次の7つの取り組みを実施し、その成果を社会に発信していきます。
① 保護者とこども園が協働して乳幼児を育てる「共育支援プログラム」の開 発と実施
② 妊娠期の保護者に対する支援プログラムの開発と実施
③ 保護者支援の力量を身に付ける保育教諭の養成カリキュラムの開発と実施
④「親性育成教育プログラム」と「子育て・教育支援コンテンツ」の開発と実施・提供
⑤ 中・高・大学生に対する「次世代親性育成教育」の実施
⑥ 中高生、養成校生、現職保育者、保護者の相互連関による親性育成のための教育プログラムの実施
⑦ プラットフォームの開発と情報発信、交流の促進
時代的背景
地域の子育て支援の拠点となるべくこども園では、子育て支援事業の実施が義務付けられ、相互交流の場の開設、地域の家庭に対する相談支援、一時預かり事業等が実施されています。こども園で実施される子育て支援は、「相互交流の場の開設等による情報提供・相談支援」、「地域の家庭に対する情報提供・相談支援」、「一時預かり事業」、「子育て支援を受けることを希望する保護者と援助を行うことを希望する団体等との連絡・調整」、「地域の子育て支援者に対する情報提供・助言」の5つに分類されています。しかし実際は、園庭開放等による支援や相談支援に留まり、保育者自身も、子育ての経験がなかったり不足していたりすることなどからストレスを抱えていることが報告されています。
つまり、こども園は子育て支援において高い教育的資源を有するにもかかわらず、現状では、その有効な活用や検証はまだまだ十分とはいえません。また、「産前産後の切れ目のない支援」が提唱されつつも、多くのこども園では、保育を主においた従来の子育て支援が多く、妊娠期を含めた保護者を対象とした家庭教育や乳幼児教育を切れ目なく行っていくことが必要です。
①保護者とこども園が協働して乳幼児を育てる必要性
保育者の負担感を解消するためにも、また保護者が主体として子育てに取組むためにも、こども園を活用し、保育者と保護者が協働して保育・教育を行う「共育支援プログラム」が必要です。それは親の子育ての負担を軽減するという支援に留まらず、親の子どもを育てる資質・能力の向上に焦点をあて、保育者も共に学びあいつつ、互いに「親性」を高め合うものです。
② 妊娠期の保護者に対する支援の必要性
近年の研究では、母親と父親に共通して親性に関わる神経基盤があり、男性の親性脳も個人差はあるもののパートナーの妊娠期から育ち、直接育児に携わった時間と親性脳の発達は関連することが示されています。このような知見を踏まえると、妊娠期から妊婦とそのパートナーを対象とした支援プログラムを開発し、実施する必要があります。
➂ 保護者支援の力量を身に付ける保育教諭養成の必要性
保育者養成校においては、幼稚園教諭免許のための授業と保育士資格のための授業に乖離があり、乳幼児期の教育・保育を一体的に捉え、養成カリキュラムを作成することは急務です。妊娠期からの長期的な視野に立った発達支援ならびに保護者支援を行える保育者(保育教諭)の養成が望まれています。
④ 科学的知見に基づいて保護者を支援する必要性
情報化社会において、保護者には科学的な知見に基づく適切な子育て支援をコンテンツなどによっても提供すると共に、保護者自身に対する子育てについての教育を提供する「親性育成教育プログラム」が必要です。具体的な子育て技術の教授、不安などへの相談支援、必要な支援へとつなげていくソーシャルワーク的な役割をこども園が担いつつ検証を重ね、保護者のニーズに即したより効果的で効率的な「親性育成教育プログラム」の開発を行いたいと思います。
⑤ 中・高・大学生に対する「次世代親性育成教育」の必要性
養育行動に関わる脳のはたらきは、経験によって形成されることがわかっており、早期から乳幼児と触れ合う経験の重要性が示唆されています。次世代の親となる中・高・大学生に対して、その時期から乳幼児やその保護者と関わって学ぶ「次世代親性育成教育」は、重要な課題です。また、乳幼児に直接的に接するだけでなく、妊婦や保護者の方との交流を通して、育児への不安や期待、その喜びなどを共有し、子育てへの希望をもてる取り組みが求められています。
⓺中高生、養成校生、現職保育者、保護者の相互連関による親性育成のための教育プログラムの必要性
親性は、知識を学ぶだけでは獲得することが困難であり、経験によって獲得されることが示されています。現在行われている親性育成のための教育プログラムは、中高生、養成校生、現職保育者、保護者などが、ターゲット別に実施されています。しかし「共育」ということを考えた場合、全世代の人々が子どもを中心に集まり、共に学びあう場とそのための教育プログラムの構築が求められています。
⑦プラットフォームの開発と情報発信、交流促進の必要性
情報化社会において、保護者には科学的な知見に基づく適切な子育て支援を提供することが必要です。そこで、プラットフォームとしてのホームページの開設を行うことで、正確な情報の発信に寄与したいと閑雅ています。さらに、それらを利用して保育の魅力、子育ての魅力についても情報を発信し、子どもへの共感的であたたかなまなざしを社会で共有したいと思います。
また、こども園自体は、現実世界における「共育」の場(プラットフォーム)となります。こども園を地域に「ひらく」ことで、子育てに関わる全ての人(将来的には地域の人も)が集う場となり、これは「相互交流の場の開設等による情報提供・相談支援」としてこども園に求められている機能そのものでです。奈良教育大学附属こども園では、全世代が集い子どもを中心に学びあい、共に子どもを育てるプラットフォームとして機能するこども園づくりを目指します。